カテゴリ: 短編

未希はこのところの、自分に降りかかる不運の連続を嘆いていた。仕事が終わると遊びにも行かず、ショッピングもせず、同僚と飲みにも行かず、ただ家を目指して歩みを進めるだけだった。帰宅するとすぐに自分の部屋に閉じこもり、一体どこで歯車が狂ってしまったのかと不運の ...

小高い丘の上に立ち並ぶ住宅街からは、乱立するビル群が地平線に張り付く影絵のようになって、遥か遠くに眺めることができた。太陽は完全に沈み切っていた。しかしその名残のせいで、影絵の輪郭は、まだオレンジ色の層に覆われ、そこから上層は淡い水色からダークブルーへと ...

「マサル、っていうんだ。そいつの名前」「覚えてるんですか?」「ああ、忘れられんね…」ジャスのBGMの音量があまり届かないバーカウンターの片隅で、マスターを相手に人生も半ばを過ぎた中年男が、このところ、その人生も少し狂いかけていることに対して一人ごちていた。ま ...

Y氏は遊園地の施設係員である。客が乗り物に乗るときの誘導をしたり、チケットを切ったり、お客の列を整理したりする。彼の担当はメリーゴーランドだった。メリーゴーランドはY氏一人でほぼ全ての作業を賄えた。最近はメリーゴーランド目当てに来てくれる客はめっきり減った ...

ミミとララは双子だった。そしてミミとララは……。いくら双子とはいえ、成長する過程においていつしか個性が芽生え、お互いの特徴も違ってくるはずなのだが、二人はあまりにも酷似していた。体形はもちろん、髪の色も質も、目の色も、爪の形も、好きな食べ物も細部に渡って ...

ルーベンス《神々の会議》1622-24年、ルーヴル美術館万物を創造した神々が終結し、会議が開かれている。今まで自分たちが創り出したものが適正に運航しているかどうかを検討し、その中で必要なものは残し、不必要なものは消滅させることを決定するための会議だった。宇宙や惑 ...

M氏は窓の修理屋だ。大きい窓に小さい窓。四角だったり丸かったり、出っ張ったりへこんだりしている窓。押して開く窓、内側や横に引いて開ける窓。乱暴に扱われ、壊れてしまった窓。夏、太陽の容赦ない熱に焼き付けられたり、冬の寒さに凍てついてしまったりと、その風雪を長 ...

船内の隊員たちの胸は躍っていた。カウンタ-に表示される残日数を見ると、三か月前に地球圏内に突入し、地球到着まであと一か月と迫った日だった。今まで太陽系には存在しない、様々なサンプルやデーターを収集することができた。ある化石の調査により、地球外生命の存在に ...

アイちゃんは、毎朝5時には起床する。身支度を整え、窓を開けると小鳥のさえずりと共に清々しい朝の空気が部屋に入ってくる。今日も沢山やることがある…、アイちゃんはその工程を一度頭の中で思い描いた。アイちゃんが一番最初にやるべきことは、神棚の水を替え、そっと目 ...

霧が晴れてしまうと、魚たちは忽然とどかに消えていなくなってしまった。それまでは、悠然と泳いでいたにも関わらず、姿を消してしまったのだ…。泳いでいた場所までいってみても、魚が地面で跳ねている姿を見ることはなかった。その場所には水辺なんて必要なかった。たとえ ...

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